Wakamats イベント「市民が考える脳死・臓器移植」の成果・資料公開



「脳死・臓器移植」を考えた市民パネルの活動記録 −専門家との対話から市民の提案へ−

「市民が考える脳死・臓器移植−−専門家との対話を通じて」の市民パネルがまとめた 「市民の提案」

私たち市民参加研究会は、脳死・臓器移植をテーマとして新しい市民参加手法を設計し、社会実験しました。この新しい参加手法を用いた4日間のイベントの最終結果として、市民パネルはこの「市民の提案」をまとめました。

2004年12月6日に開始した市民パネル募集に応え、40名を超える応募者がありました。私たちは、世代・性別によって応募者を分け、くじ引きによって市民パネル17名を選びました。なお、途中、1名の方が都合で辞め、市民パネルは16名になりました。

市民パネルは、第1日目(2005年1月29日)、脳死・臓器移植についての基礎知識を学習した上で、6人の専門家から事務局が用意した三つの質問(脳死は人の死か、脳死・臓器移植の現状をどう捉えるか、これが、今後どうなるべきか)に答える形で、情報提供を受けました。第2日目(2月5日)、市民パネルは、第1日目の情報提供を前提に、市民パネルの課題を果たすために、さらに専門家に聞くべき「鍵となる質問」を議論し、まとめました。第3日目(2月26日)、市民パネルは、9人の専門家から「鍵となる質問」を中心に情報提供を受け、さらに、グループに分かれて、フェイス・トゥ・フェイスの質疑応答を行いました。

市民パネルは、第4日目(3月5日)、それまでの情報提供をもとに議論し、私たち主催者が求めた、脳死・臓器移植に関して「いま社会として何をどう考えるべきか」について、「市民の提案」をまとめました。これは、当日、閉会後直ちに読み上げる形で記者発表しましたが、まとめられるに至った経緯を簡略に紹介した上で、ここに改めて公開します。

なお、時間が足りず、表現の細部において統一されていない部分がありますが、内容においては、市民パネルによって逐条、議論され、合意(合意のルールを設定しました)されています。

2005年3月9日
市民参加研究会・代表 若松征男

1.脳死

1A市民パネルは「脳死」について、専門家からの情報提供に基づいて、次のように理解した。

「脳死」は「生」の状態か「死」の状態か専門家の間でも意見が分かれる。「脳死」は「生」の状態とも「死」の状態とも断定できないということを理解した。現状では科学(医学)的な妥当性を基準に死を線引きする論理が主流であることを理解した。

1B以下のように「脳死」について提言する。
  1. 科学的な死の判断にはグレーゾーンがあるため、科学的判断以外の要素(文化、社会、倫理)を考えるべきである。
  2. 市民パネルは脳死と臓器移植を区別して考えるべきか否かについて、両方の意見が出され合意に至らなかった。

2.脳死判定

2A市民パネルは「脳死判定」について、専門家からの情報提供に基づいて、次のように理解した。
  1. 脳死判定基準に厳密にしたがって判定が行なわれていると理解した。しかし、脳死判定基準について適正かどうか、専門家の間で見解が異なる(無呼吸テストなど)。とりわけ子どもの場合、脳死を判定された後、回復する例もしばしば見られる。
  2. 医療従事者すべてが脳死や移植医療を正確に理解しているわけではないために、患者に十分なインフォームドコンセントを与えられない状況にある。
2B 以下のように「脳死判定」について提言する。
  1. 市民を含む第三者機関が脳死判定基準の妥当性を科学的に検証する必要がある。意見の異なる専門家同士の公開討論も必要である。
    (子どもからの脳死臓器提供を認めるのであれば、子どもに対する脳死判定基準は大人に対するよりも厳しくするべきである。)
  2. 患者に十分なインフォームドコンセントの機会を与えるために、医療現場における異なる立場の連携が必要である。

3.意思表示

3A市民パネルは「意思表示」について、専門家からの情報提供に基づいて、次のように理解した。
  1. 脳死下での臓器提供には、本人の意思表示、家族の同意が必要である。現行制度は意思表示がないと臓器提供ができないので、臓器移植の一定の歯止めになっている。
3B以下のように「意思表示」について提言する。
  1. 本人の意思表示は、脳死を十分に理解した個人が行なうべきである。
  2. 本人の意思表示のために、十分な情報が提供される必要がある。

4.医療としての臓器移植

4A市民パネルは「医療としての臓器移植」について、専門家からの情報提供に基づいて、次のように理解した。

「移植医の認識」として、脳死臓器移植以外の医療は当面の間期待できない、ということがあり、脳死臓器移植は過渡期的な医療として必要である。

4B以下のように「医療としての臓器移植」について提言する。
  1. 「最終的には脳死臓器移植を必要としない医療(再生医療、人工臓器等)にしていく」という方向も進められていくべきである。

5.情報

5A市民パネルは「情報」について、専門家からの情報提供に基づいて、次のように理解した。

市民が自ら判断できるだけの情報が不足しており、また提供の仕方には偏りがある。「情報」については、情報の作成・提示・公開・理解・判断・選択というプロセスがある。

5B以下のように「情報公開」について提言する。
  1. データの恣意性は不可避なので、情報公開する際は、サンプリングや調査のプロセスをも含めて公開していくべきである。
  2. 市民が常にアクセスし、参加できる(市民の質問に対して回答が得られる)データベースを整えるべきである。
  3. 脳死臓器移植関係者は、積極的にアカウンタビリティ(説明責任)を果たすべきである。
    〈提供すべき情報の内容として〉
    具体的には、脳死・医療現場、ドナーとレシピエントの実態などである。
    〈具体的な手法として〉
    BSEのように専門家や行政が市民に説明する場や、推進派、反対派の双方が討論できる公開パネルの開催が必要である。このような機会を通じ、専門家・行政が市民にわかりやすく説明することに慣れていく必要がある。
  4. 市民も積極的に関心を持って情報を活かす努力をすべきである。

6.その他

6A-1 国際的な臓器売買の問題があることを理解した。
6B-1 今後の日本において臓器売買の一翼を担ってはならない。