「脳死・臓器移植」を考えた市民パネルの活動記録 −専門家との対話から市民の提案へ−
市民パネルから専門家への「鍵となる質問」
詳細版
この「鍵となる質問」がどのような経過で作られたかを簡単に説明します。
市民パネルは2005年1月29日(第1日目)、事務局から課題についての基礎知識の提供を受けた上で、6人の専門家から、事務局の用意した三つの質問への回答を聞きました。これを前提として、2月5日(第2日目)、市民パネルは、課題を考えるための情報を得るために、以下のような「鍵となる質問」を作りました。
質問内容は、1 考え方・枠組み、2 脳死、3 医療、4 社会、5 制度と、5つに大きく分けられています。なお、この文書では、煩わしいと感じられるかもしれませんが、ご回答を考えていただくために、「鍵となる質問」だけでなく、それが生まれた背景となる作業内容を記録してあります。
質問は、各項目で、(1)、(2)などで示され、さらにその下で、{1}、{2}などの小項目にした質問もあります。なお、1の考え方・枠組みはこの課題自身が大変難しく、多岐にわたる内容となりました。そこで、1の(1)のような質問となりました。その上で、この課題を考えるために、是非(2)の質問をしたいということになりました。
第2日目、市民パネルは、第1日目から出てきた感想(意見カードと呼ぶもので書き出しました)から出発して、この質問を作る作業をしました。▽をつけた項目(9ポイントの小さい文字で示しました)がそれです(例外については、但し書きがあります)。また、意見カードには作業の途中で出されたものもあります。なお、例外的にですが、議論の上、質問になった意見カードもあります。質問にはなっていない意見カードのまとめはグループでの議論の結果出てきたものと、ファシリテーターが提案したものとがあります。
なお、質問の文章自体は、時間不足のため、市民パネル自身がまとめることが出来ませんでした。そこで、市民パネルの了承を得て、市民パネルの議論を、事務局が整理し、文章化しました。
ご回答いただくにあたっては、質問だけでなく、意見カードにあることに触れていただいても結構です。
事務局
1.考え方・枠組み
(1)これまで2日間の市民パネルの議論において、脳死・臓器移植の問題を考える際の基本的な枠組みとして、社会・文化・宗教、個人・家族、法律、医学という視点から考えてみました。私たちは、この問題を考えて行くと、「人の死とは何か」という問いに行きつくのではないか、とも考えました。あなたは、この問題をどのような視点や枠組みで議論すべきだと考えますか。ご自身の見解をお聞かせください。
[人の死とは]
- 「人の死」を1つの認識でまとめなくてもいいのではないか?
▽「人の死」:法律上の解釈▽脳死が人の死と決められないものを決める必要があるのか。(グレーなものはグレー)▽「助けたい命」と「助からない命」との間で命の比較考量がされている▽なにより命の価値のバランス▽臓器は可処分財産(モノ)か。本人の意思→可処分との考えが基礎。キモチワルサ!▽ミクロ的には認めたい。がしかしマクロ的に考えるべき cf.医療の在り方▽「人の死」の定義そのものは法律には定められていないが、本人の意思が確認されて家族が同意して、法的(施行規則第2条)に定められた方法によって検査し、「脳死」と判定された人の体は、「死体」と見なして扱い、人口呼吸器をはずし、そこから臓器を取り出し、「心臓停止」に至らしめても殺人にはならない。(違法でもなく、違法性阻却の対象ともならない)このような訳で一口に「脳死は人の死」か、と聞かれれば法律的には条件付で「人の死」とされる場合がある。(条件が整わなければ「人の死」ではない)と理解してよろしいか
[社会・文化・宗教]
- 死について、国としてひとつの基準をつくるか、多様性を認めるのか
- ミクロとマクロ、どちらで考えるべきか?
- 死とは、個人的なものだが西欧の考え方にあわせる必要はあるのか?
- 死とは、個人的なもの。社会とのバランス
- 日本の文化・宗教を考えた脳死・臓器移植とは?
- 西欧の考え方にあわせなかったら今後どうなるのか?
- キリスト教圏でも(脳死・臓器移植は?)普通か
▽何歳まで生きられたらいいか▽宗教観・文化の違いによる考え方の違いを認める▽世界全体の脳死や移植に関する考え方は?▽欧米だけでなく、イスラム圏や中国は?▽臓器・組織(角膜など)・血液移植の受け止め方の変化・歴史は?▽臓器(心臓)移植、ドナー数、宗教人口との相関は調べてあるのか(仏教人口は世界の少数である)▽どこまで治療を受けるか▽死生観が個人のものだとすると、尊厳死・安楽死・自殺(はどうなのか?)▽「まだ生きている」と「もう既に死んでいる」との間にギャップを感じる▽文化を他の国と必要があるのか? (比べるのがおかしいとは思わないのか?)▽日本人の死についての受け止め方の歴史? 宗教的・倫理的・・・▽死んだらどうなるか▽魂の問題にふれていない▽「死の認識」の違いを認める▽「主観と客観」▽欧米の最新研究は、「脳死は人の死」に対して、疑問をもっている。(シンガーの主張)▽ドナー不足の程度 現在、心臓移植希望患者が77名いらっしゃるが、過去数年においてその増減傾向は? ドナー登録者660万人(7000万もの9.5%)から、実際に臨床的脳死が起こり、家族が承認し、心臓提供が可能となる「死体」の潜在的な発生数は年間どのくらいになるでしょうか? 「脳死心臓提供意思表示者数×死亡率×脳死発生率×家族同意率」(仮に0.1×0.03×0.01×0.1とすれば、年間20名の脳死提供が望める)
[個人・家族]
- 脳死を「死」として受け入れるのに時間がかかるのでは?
▽臓器移植は元気な親から子へ、年長者から年少者へのプレゼントですか?▽自分が移植でしか助からなかったら?▽(家族)自分が必要になったとき、要らないといえるか? (反対する人は)▽わが子を、提供者にできるか(賛成するか)▽レシピエントのケア。ドナー家族のケア▽第2次判定後、納得し呼吸器をつけて2〜3日、家族とのお別れのセレモニーはできないのか▽海外で移植を受けるのはエゴか▽心停止後は本人(故人)の意思・尊厳は▽提供家族会のその後の考え(後悔など) 会合のまとめはないか▽家族と意思疎通ができなくなった時、どのくらいの期間がたつと心が離れてあきらめるか▽人間は死を受容するのに時間がかかるのでは?▽家族の死を受け入れるのに必要な時間
[法律]
▽脳死を死としなければ臓器摘出は殺人になるから、「死」だとする以外に、殺人にならない(違法性阻却)とする方法はないのか(安楽死も絶対ダメか)▽死→個人の問題、国の問題(法律で決めること)▽なぜ法で決めるのか→移植があるから▽脳死というネーミングは脳機能の不全とか意識障害と正しくつけるべきでは▽「脳死」のネーミング▽「移植の問題がなければ」脳死はどのような問題なのか▽平等に生きる権利?公平な分配?⇔人はそもそも不公平な存在!恣意性▽臓器移植、再生医療、予防医療、最終根治医療▽検死は国民的合意があるのか?▽「見えない死」といわれるが、見えるようにする方法 (患者プライバシーと医療のアカウンタビリティーの係わり合い)
[医学]
▽移植を廃止するとは、現実的な選択肢か? 生体移植・渡航移植が増えることの問題▽脳死・臓器移植はどこまで同一の問題として論じられるか▽移植を別において、延命治療(栄養・呼吸器の人工的とりつけ、とりはずし)の基準をどう考えるのか(安楽死も含めて)▽脳死患者が「モノ扱い」されていないだろうか?▽技術的に可能。論理的構成⇔でも、倫理的側面▽死亡時刻▽死んだ人に麻酔を打つのはおかしい▽人間ですか、ロボットですか。人工臓器はどこまでやるのか。人工心臓−心臓死がなくなる▽臓器を“モノ”と見るか否かで変わる▽脳死=死んでいるなら、それ以降治療不要なのでは?(矛盾)▽記憶喪失・痴呆>は? 本人じゃないの?▽心臓死、脳死、機能停止、細胞死▽レシピエントの延命、QOLの向上というが本当?▽脳死・臓器移植は治癒を目的としているのか?ドナーは助からない?▽脳死、研究目的 (医療目的)移植
※ その他、ファシリテーターが市民パネルの議論を聞き、以下のような論点やキーワードを抽出し記録しました。
▽脳死とは?▽脳死の判定は?▽脳死のもっと良いネーミングは?▽死の判断▽脳の判定▽臓器移植のとき、治療をやめるとき▽法律▽世間、世の中▽家族▽血の通った判断▽オープンな報道▽人の死▽科学的な死▽人の死とは▽西洋の医療▽宗教の違い▽国際的な問題▽脳死と移植の関係▽今後でてくる問題は?▽“死者”との別れ▽「人の死」を1つの認識でまとめなくとも良い▽経済、商業、人権、医療現場、教育、社会的な合意形成、情報公開
(2)あなたは今後、脳死・臓器移植がどうあるべきだと考えますか。また、かりにあなたが臓器移植を受けなければならないとしたら、臓器移植を受けますか。
2.脳死
(1)脳死は本当に人の死ですか。
{1} 脳死と判断された人でも現実に長期に渡って、体の動きがみられた例があり、家族の声に反応し、涙を流す脳死者がいるというが、それでも本当に人の死なのですか。
▽脳死と判断された人でも現実に長期に渡って、体の動きがみられた例がある▽家族の声に反応し、涙を流す脳死者がいる▽それでも本当に人の死なのか▽全脳機能停止は本当に脳死ですか。それは人の死ですか。細胞死?▽脳死は人の死か?▽生物学的事実として、脳死は人の死ですか?▽脳死を人の死とするかは疑問である▽脳死ではありません。生き返った人、二人知っています▽死んでいない人だと思います
{2} 死の範囲はどこまでですか。
▽脳死が人の死なら、植物状態は人の死ではないのか?▽人の死を本人の意思で決められるか。尊厳死、安楽死、自殺?
(2)脳死判定や脳死判定基準についておたずねします。
{1} 脳死判定は正しく行われているのですか。
▽脳死判定は正しく行なわれているのか▽脳死判定は本当に正しいのか▽判定の“恣意性”どこまで認知か、科学的にわからない▽脳死判定の妥当性を正確に検証できるのか?
{2} そもそも脳死判定基準は正しいものですか。
▽脳死判定基準は正しいものであるかはっきりしない▽脳死判定基準はあるものの、確実な定義がはっきりしていない▽「全脳死」から「間脳死」を除外したときの議論は?▽「全脳死」の範囲
{3} なぜ脳死判定基準が必要になったのですか。
▽厳密に脳死状態を判定する必要性はなぜ生じたのか?▽脳死判定はなぜ発生したか(脳死状態は既にあった)
{4} なぜ脳死判定基準は国際的に統一されていないのですか。
▽なぜ脳死判定基準は国際的に統一されていないか
{5} 脳死判定や脳死判定基準の妥当性は、どのように検証され担保されていますか。
(3)脳死者は臓器提供以外に存在意味はないのですか。
3.医療
(1)臓器移植を受けると本当に元気で長生きできるのですか。
{1} 移植を受けない方が生存率が高かったというデータをどう考えますか。
{2} 移植医療のほうが代替医療より優先されているのではないですか。移植に頼らない医療技術の可能性と限界について教えてください。
▽移植に頼らない医療の可能性をもっと知りたい▽移植はなぜ「良い」といえるのですか(悪い面があるのではないですか)▽ES細胞から脳を作る可能性はないのか▽成功率向上の限界は?(家畜データでもよい)▽移植適齢期はあるのか? あげる人、もらう人▽お金、保険 どこで利益が生じるか。薬、医療▽モルヒネはどこに効くのか。脳か脊髄か▽心停止後の臓器の保存、再生方法、再活性
(2)脳障害の人を助けるための医療は、なぜ進まないのですか。
▽脳死者への医療技術の確立?▽人間の部分治療でなく全体治療であるべきだ▽低体温療法を広めない理由は? 現状?▽脳死者に対する医療▽救急救命(脳死者を生まない)医療現場の声が聞きたい。これに向かった努力をしている医者▽脳治療の現状はどうなっているのか?▽脳死判定病院での救急医療の真実▽移植の頼るあまり、治療(治癒)医療が進まない▽脳死の人を助けようとする医療も必要では?(脳だって臓器)▽臓器移植を医学の流行にしないでください
(3)現場の医療従事者の間では、脳死・臓器移植についてどのような議論がなされているのですか。病院内・病院間・学界など、ご自身の分かる範囲でお答えください。
▽移植医と麻酔医の本音を聞きたい▽医師の心の問題▽医学界の争い 埼玉医大vs. 京大 病院間の違い 理解?▽6年間の教訓▽医師のとまどいを議論し、反映し制度化するよい方法はないのか?
4.社会
(1)脳死・臓器移植に関する情報公開や教育についておたずねします。
{1} 脳死・臓器移植について、適切に情報公開や情報提供がなされていると思いますか。また、今後の情報公開・情報提供(教育も含む)をどのように行っていくべきだと考えますか。
【情報公開はどのように行っていくか】▽情報公開をどのように行なってゆくか(誰が、どのように)▽脳死・臓器移植の情報が公開されていない▽過去の移植の情報不透明性▽“プライバシー”の一言で片付けられる情報の影
【脳死・臓器移植についての情報・知識不足】▽「脳死は人の死」わかりやすい解説▽脳死・臓器移植についての教育プログラム
【脳死は不可逆的か?についてのデータが必要】▽脳死は死か。→本当に不可逆的か cf.医者23% 看護士 50%分からない。データ必要▽脳死者が20年以上生存した例
【脳死判定現場、さらなる情報公開、記録開示はできないのか】
【脳死者がすべて臓器提供したときの数は】脳死の人がすべて臓器を提供すると毎年どのくらいの数が得られるか
【意識調査がもっと必要ではないか?(あるのかないのか)】▽意識調査 医師、政治家、市民、学生▽脳死・臓器移植についてもっと多くの人たちから意見をとる
{2} この問題に関する報道の現状と問題点について、どのように考えますか。また、今後の報道はどのようになされるべきだと考えますか。
【レシピエント側に偏った報道】▽臓器移植して元気になりました!的な映像は多数放映されている▽ドナーの問題(不可欠の要因) 本人の意思、家族の同意、具体的なケース▽臓器移植の映像は国内では3例しか放映されていない
【ラザロ徴候は知られていない】▽ラザロ徴候というものの存在
【情報操作があるのでは?】▽国内キャンペーンが政治・業界・メディア三位一体で行なわれているのか?▽マスコミの放送の仕方にも中立を保ってください
(2)脳死・臓器移植に関する社会的合意についておたずねします。
{1} この問題についての社会的合意をどうつくるべきだと考えますか。
▽社会的合意。医師、法律家、研究者▽社会的合理性、手続き、法改正の透明性▽どのような手続きで誰が決定に関わるのか
{2} 医療現場と法律・政治(立案者)とのズレに対して、どのように対処すべきだと考えますか。
▽現場と政治(法律を作る側)のズレをどうするのか
(3)臓器移植は人体の商品化を促していませんか。
▽各臓器のお値段は▽臓器売買の現状、センターは把握しているか▽お金・保険。臓器売買▽脳死・臓器移植の経済効果は?▽経済効果はどのくらい
5.制度
(1)臓器移植法ができたのに、現場での脳死判定や、脳死に対する国民の理解などの面で、様々な問題や混乱が生じているのはなぜだと思いますか。法律が問題なのですか、その運用が問題なのですか。
▽脳死・臓器移植法はどの程度、国民に理解されているのか?▽運用が適正に行なわれているか? そのための制度とは?▽国民の意思が本当に担保されている制度なのか▽法改定てつづき、合意形成努力、不透明▽現行法の条文解釈は本質論ではないのでは? 遺言規定との関係は?▽現場が混乱しないよう、法整備するべきである
(2)臓器移植制度の運用の中立性・公平性についておたずねします。
{1} 臓器移植コーディネーターは中立なのですか。その中立の根拠は何ですか。また中立性をチェックする仕組みはありますか。
▽患者と医師の間に立つ中立な国家資格を設けるべきではないですか?▽コーディネーターは本当に中立を保てるのか▽(ドナーとなる)本人の思いを不備で無駄にしてしまうことがおかしいのではないか? 問題が根本的に違う
{2} 運ばれる病院によって、脳死判定が行なわれるか否か決まってしまっている現状は、不公平ではありませんか。
▽ふりわけ (1)臨床的脳死判断(2)病院体制▽脳死判定が第三者によってチェックされているのか?▽臓器移植を収入源にしてはいけない▽善意を無駄にしない努力をすすめるべき
(3)外国との制度上の差異が今後何をもたらすと考えますか。
▽外国へ行っての移植に疑問(臓器不足から)
(4)何歳以上の人であれば、自分で臓器提供の意思表示ができると考えますか。自分で意思表示できない人についてはどう考えますか。子供が自分で提供を決める能力がないとすると、親にそれを決める権利があると思いますか。
▽子供の意思表示▽子供が脳死移植を本当に理解して意思表示できるのか?▽15歳未満の者への疑問▽15歳未満とんでもない▽15歳未満の者は臓器移植できないことは維持すべきか?▽脳死表示の低年齢化には疑問
(5)日本で脳死者からの臓器提供が少ないのはなぜだと思いますか。意思表示カードの条件が厳しいからだけですか。臓器移植が進まない本当の理由は、家族の同意が容易に得られないからではないですか。
▽意思表示カードのみで人間の意志を十分に確認できますか?▽カード記入、本人確認は?▽本人の同意と家族の同意と、他の家族が同じように納得できると思うか▽本人と家族の同意必要▽ドナーカードの所持が低いことは何を表すのか▽反対意思表示カードの運用には賛成できない▽法改正以前に、意思表示カードの見直し、電子化をしたらどうか?▽ドナーカードの軽便、軽薄さ