さて、今回の試みのテーマとして私たちは遺伝子治療を選んだが、その理由は何だったか。
デンマークのモデルでは、コンセンサス会議のテーマ(あるいは課題)は次のようなものとしている。
- 今、社会で話題となっている
- あまり抽象的でなく、問題の範囲を決めることができる
- 対立を含んでいる
- それについての態度・目標を明確にすることが求められている
- この明確化のために専門家の寄与が必要である
- それについての知識・専門知識が得られる。
この基準に当てはまるものはいろいろとあるだろう。実際、遺伝子操作食品なども候補として考えた。しかし結局今回のテーマに落ち着いたのであるが、そこには次のような考慮があった。
まず、第一に専門家の協力が得られることである。
しかも、まったくのボランティアとしてである(私たちが支払ったのは旅費・宿泊費プラスアルファ程度である)。
私たちには、専門家を説得するのに十分な権威あるいは正当性をもっていなかったし、また、十分な資金もなかった。
したがって、専門家の側に、この会議に参加する何らかの具体的なメリットあるいは動機が必要であった。
これに対して、遺伝子治療は臨床実験に向けて動いているところであり、積極的に社会の理解を得たいと考える研究者がある程度いるだろうと推測できたのである。
今一つ、まだ対立があまりはっきりしておらず、激しい論争状態になっていないことである。
これは、第一の点とも関連するが、専門家の協力を得る点だけでなく、私たちのコントロールが効かない、あるいは、会議運営に混乱をもたらすことを恐れたのである。
市民パネル、専門家パネルは集まってくれたか?:
私たちは、こうした試みにボランティアとして参加してくれる市民、専門家がいるかどうかがもっとも心配であったが、それは杞憂であった。9人の専門家、そして、19人の市民が活発に参加し、予定した会議スケジュールをこなしてくれた。その結果、意見文書(コンセンサス)が作られ、3月21日の公開シンポジウムで、私たちの試みの成果を発表することができた。 |